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​意見表明・提言

2030年に向けた大学教員の教育能力の開発と評価についての7つの提言

-FD2030-

 

日本高等教育開発協会

2018.7.25

 

提言の趣旨

 社会は、AI・IoTの普及による第4次産業革命、あるいはSociety5.0に突入していると言われています。この産業構造と社会の変化に伴い、求められる人間像や能力・資質も変化しています。政府や教育現場では新学習指導要領下の教育課程で学んだ子どもたちが高校に入学する2030年を見越した、教育内容や方法のイノベーションが議論されています。こうした議論の中で作られた各種改革案が実行されれば、教員の役割や求められる能力・資質も大きく変容することが予想されます。

 大学教員も例外ではありません。現在、外国籍を持つ教員や実務家教員など多様な背景を持つ教員が増加していますが、これは大学教員に求められる役割の変化を表したものとも言えます。つまり、グローバル化に対応し、産業界と学術界を繋ぐ役割が重要になりつつあることを示しています。今後はAIの普及により、現在ほどの大学教員は不要になっていく可能性すらあります。

 一方、FD(Faculty Development:大学教員の能力開発)が、大学設置基準上、学士課程では2008年に義務化されて以来10年が経ちます。しかしながら、諸外国の取り組みと比較しても、日本のFDは、その展開速度、規模、プログラムの成熟度という点で、いまだ遅れをとっていると言わざるを得ません。その理由として、政策レベルから、大学マネジメントレベル、教員個人レベルにおいて、大学教員の能力開発の必要性や重要性がいまだ認識されていないことが考えられます。

 日本高等教育開発協会は、大学での教育開発を担うファカルティ・ディベロッパー(FD担当者)の専門職団体として、社会や大学の未来を見据え、2030年のFDのあるべき姿を示す指針を「FD 2030」と題した提言をまとめました。主要なメッセージは、大学教員の教育能力の育成のあり方を、政府・大学・教員の各レベルにおいて見直し、持続可能な教育の質保証システム構築を行う必要があるというものです。「大学教員は資格を持たない最後の専門職」と言われて久しいですが、この状況に終止符を打つ時です。

 提言の読み手として想定しているのは、政策立案担当者、大学管理職、学協会代表者、大学教職員などです。7つの提言は相互に関連づけられており、一体的に実現に向けて関係者が足並みを揃えていく必要があります。またすぐに実現可能なものもあれば、2030年に向けて今から準備を始めなければならないものもあります。本提言が、これからの日本のFDを照らす道標になることを期待します。

 尚、本提言では、「FD」という用語を使用していますが、その内容は「大学教員の教育能力開発」に関するものについてのみ言及しています。その点では、「大学教員の教育能力開発」あるいは「大学における教育開発(高等教育開発)」と表現した方が正確です。しかしながら、これらの用語はいまだ社会に普及していない用語であるために、本提言では過渡的措置として「FD」を使用しました。

 

提言1.大学教員の教育能力資格の取得を必須化する

 大学がエリートのための高等教育機関であった時代はともかく、現代のように大衆化した高等教育機関において、大学教員の教育能力を証明する資格は不要であるとする根拠を説明できる人はいないでしょう。

 イギリスや北欧諸国では、終身雇用権のない若手の大学教員に対して、高等教育機関で教育するに相応しい能力の証明を求める事例があります。具体的には、「高等教育機関における教育能力資格(Certificate for Teaching in Higher Education)」の取得を求めています。

 日本においても、大学教員に教育能力資格の取得を必須化すべきです。具体的には、体系的な研修の修了証明のほか、ティーチング・ポートフォリオ(教育業績を証明する文書)、シラバス、各種教材、学生や同僚からの評価、授業アンケート結果などの根拠資料を示し、模擬授業を行うことにより、規定されている能力を保持していることを証明します。つまり、研修を履修したという事実だけではなく、能力が身についているのかという修得主義の観点を資格付与条件に取り入れるべきです。。

 各大学は教育能力資格を保有している大学教員の人数や割合を社会に対して発信することで、教育の質に対する説明責任を果たすことができます。

 

提言2.「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力」を明確化する

 大学教員の採用・終身雇用権付与・昇進にあたって、教育能力を示す根拠として、担当コマ数、受講学生数、卒業論文・修士論文指導をした学生数、授業アンケートの結果などが一般的に使われています。これらは教育能力から導きだされる成果の一つではありますが、教育能力はこれらだけに規定されるものではありません。

 大学設置基準第十四条では「大学教授の資格」が定められています。そこには、研究能力に加えて、「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者」に、教授の資格を付与するとしています。ところが、多くの大学でこの能力は厳密に規定されていません。「教育上の能力」が曖昧な状況下で人事評価がなされることが多いという点が、組織的な教育の質向上に繋がらなかったり、各種研修に参加する大学教員数が低調であったりする理由の一つになっています。「教育上の能力」を各大学が明確に示す必要があります。

 「教育上の能力」は、例えば「実際に教える学生を想定して、効果的な学習を促す授業を設計することができる」というように具体的に表現されなければなりません。また、「教育上の能力」には、個別学生に指導・助言する能力、カリキュラムを設計・運用・評価するといった、授業以外の各種教育能力についても示す必要があります。

 

提言3.教員の能力開発の機会を保証する

 教育能力資格の取得の必須化は、教員にとっては権利でもあります。職務遂行に必要な能力開発の機会を保証することは職場管理者の責務であり、そのような機会がない場合、教員は管理者にその機会保証を要求する権利があります。

 教育能力資格を取得する一般的な方法として、高等教育機関で教えるために特別に設計された研修を修了することが想定されます。諸外国では、200時間から300時間程度の研修を義務化している国もあります。主に各大学にある教育学習支援センター等の部署がこうした研修を提供しています。

 日本では、半日から数日間の新任教員研修を提供している大学は多く見られますが、100時間以上にわたる研修を義務化している大学は一部に過ぎません。終身雇用権の有無にかかわらず、着任3年以内の新任教員については、教育能力の育成を目的とした継続した研修の機会を提供することが望ましいと言えます。

 新任教員だけではなく、中堅以降の教員に対しても能力開発の機会を保証する必要があります。例えば、対面研修を提供する、オンライン教材へのアクセスを可能にする、大学教員向けに書かれた教科書を配付する、個別コンサルティングを受けられるようにする、といったことが想定されます。自大学でそのような機会の保障ができない場合は、他大学や学協会に外部委託することも想定できます。

 

提言4.大学教員の人材マネジメント体制を整備する

 日本において、大学教員の人材マネジメントという考えは、これまで一般的ではありませんでした。人材マネジメントとは、①事前養成、②採用、③能力開発、④評価といった一連の過程の中で、能力の高い大学教員を生涯にわたって確保・育成していくという手法です。真に優秀な大学教員を継続して雇用していくためには、人材マネジメントという発想で、これまでの人事制度を見直す必要があります。

 ①事前養成については、大学院レベルにおけるプレFDプログラムの実施が不可欠です。とりわけ研究者養成を担っている大学においては、大学院生向けにプレFDの授業を開講したり、大学教員という職業を積極的に紹介するキャリア教育を提供したりします。

 ②採用にあたっては、必要とされる能力・資質を明示し、ミスマッチが起きないように、時間をかけて採用に至る必要があります。その際、研究能力だけではなく、教育・社会関与・組織運営能力も同様に厳密に評価します。そのためには、当該大学の大学教員に求められる「職業能力基準」を作成しておく必要があります。

 ③採用から3年程度は、上記の「職業能力基準」に基づいた能力開発の機会を提供します。集合研修のみならず、先輩教員による個別コンサルティングやコーチングなど、多様な能力開発方法を用意します。また、中堅、ベテラン教員に対する能力開発の機会も設けることで、生涯にわたって成長し続ける体系的な能力開発システムを整備します。

 ④評価についても、この「職業能力基準」に基づき行います。とりわけ教育能力は、複数の指標に基づき、多角的に評価することが求められます。また、研究同様、教育上で成果を出すには時間がかかる場合もあります。アウトカムだけではなく、プロセスの評価することも大事です。具体的には、ティーチング・ポートフォリオなどを使って、授業改善の軌跡を評価します。

 こうした人材マネジメントを円滑に進めるためは、人事部局だけではなく、理事・学長・副学長・部局長といった管理職が中心となる、部局横断的な体制をつくり、施策立案と実施を率先する必要があります。

 

提言5.FDの定義を見直す

 大学設置基準第二十五条三項では、「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究」の義務が既定されています。一般的にはこれがFDの定義だと解釈され、各大学ではこれに基づき実践が展開されています。しかしながら、この定義は、研修及び研究の対象が授業に関わるものに限定されており狭すぎるという点が、すでに繰り返し指摘されています。大学が置かれている現状や今後の社会を想定すると、この定義をし直す必要があります。修正案には2つあります。

 1つ目は、授業に限定せず、カリキュラムや組織の改善にまで拡張するというものです。例えば、「授業・カリキュラムの内容及び方法、また制度や規則等の改善を図るための組織的な研修及び研究」という表現などです。

 2つ目は、教員が能力開発を行うべき領域を、教育のみに限定せず、研究、社会関与、組織運営にも拡張するというものです。例えば、「大学教員に求められる教育、研究、社会関与、組織運営等の能力開発を図るための組織的な取組み」という表現などです。

 アーネスト・ボイヤーは、かつて大学教員の本質は、4つの学識(Scholarship)、つまり、統合、発見、教育、応用の各学識を兼ね備えていることだと主張しました。ボイヤーは、これらのうち、研究だけが高く評価されていることを問題視し、それぞれを対等なものとして評価することの必要性を訴えました。

 これらは大学教員に期待されている4つの業務(研究、教育、社会関与、組織運営)にほぼ対応しています。大学教員の価値は、研究だけでも、教育だけでも決まるものではありません。程度の差や業務の分担はあれ、すべての大学教員には複数の能力が求められています。

 

提言6.教育に関する研究を正当に評価する

 ボイヤーの4つの学識が対等に評価される時代に移行するにあたって、これから推進されるべき研究の一つは、分野別教育に関わるものです。初等・中等段階における教育学では、教科教育法という研究分野があります。例えば、英語科教育法、数学科教育法などがこれに当たります。しかしながら、大学における英文学教育法や数学教育法という学問分野は未発達です。その理由は、大学教員の中で教育に対する価値が低いからです。そのため、大学における専門教育に関わる研究の価値が低くなり、こうしたテーマで研究をしている教員の業績が正当に評価されないという問題が起きています。

 大学における分野別教育の実践を基にした研究を今後は適切に評価する必要があります。これにより、教育に力を入れている教員が自らの実践を学術研究とする道を拓くことになります。結果として、専門分野における教育研究が正当に業績として位置付けられるようになります。また、そうした研究の知見を学協会で蓄積・発信していくことで、分野別FDがさらに発展していきます。

 

提言7.各大学にファカルティ・ディベロッパーを配置する

 これまで述べてきた提言を実行に移すためには、大学教員の教育能力開発を担当する専門家である、ファカルティ・ディベロッパーの配置が不可欠です。そのためには、教育・学習支援センターといったFD担当部署の設置も必要です。規模の小さな大学では、兼任のファカルティ・ディベロッパーを配置することも考えられます。また、近隣の他大学の教育・学習支援センターや全国各地のFD・SD教育関係共同利用拠点と連携して、FDを進めていくこともできます。

 また、ファカルティ・ディベロッパー以外の専門職との連携の強化も必要です。諸外国では、インスティチューショナル・リサーチャー(IR担当者)、インストラクショナル・デザイナー(授業やカリキュラム設計担当者)、といった専門職がファカルティ・ディベロッパーと連携してFDを進めています。こうした専門職を確保・育成し、連携して業務を進めると効果的です。

 

 

FD2030を実現するためにステークホルダーができること

 

◆ 政府ができること

  • 教員個人、とりわけ新任教員に対して「高等教育機関における教育能力資格」の取得を必須化することの重要性を発信する。

  • 大学設置基準の「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究」の表現を見直す。

  • 大学設置基準の「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力」の策定と公表を各大学に義務化する。

  • 教員の業績評価において、教育業績を研究業績と対等に評価する。

  • 小規模の大学におけるFDや分野別FDを支援・推進したりするために、FD・SDの教育関係共同利用拠点を増やし、財政支援を行う。

  • 各大学の教育・学習支援センターの設置やファカルティ・ディベロッパーの配置に対して財政支援を行う。

 

◆ 大学・大学間連合ができること

  • 教員に対して「高等教育機関における教育能力資格」の取得を採用・昇進にあたっての条件とする。

  • 新任教員の採用にあたっては、プレFDの受講経験を適切に評価する。

  • 大学設置基準上の「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力」を策定し公表する。

  • 大学教員の人材マネジメント体制を構築する。

  • 教員の業績評価において、とりわけ教育業績を研究と同様に評価する。

  • 教育・学習支援センターを設置し、ファカルティ・ディベロッパーを配置する。

 

◆ 学協会ができること

  • 分野別教育において質の高い教育実践を発掘・普及し、その研究を推進・支援する。

  • 各分野別教育法を教える研修(分野別FD)を学協会の構成メンバーに提供する。

 

◆ 日本高等教育開発協会ができること

  • 各大学が活用できる「高等教育機関における教育能力資格」モデルを作成する。

  • 各大学が活用できる大学教員の「職業能力基準」モデルを作成する。

  • 各大学が活用できる大学教員研修のモデルプログラムを作成する。

  • 各大学の教員研修プログラムの質を保証する認証業務を行う。

  • 大学教員向けのオンライン教材や教科書を開発・出版する。

  • 教員の教育業績を示すティーチング・ポートフォリオを普及させる。

  • ファカルティ・ディベロッパーの養成と認証を行う。

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  提言まとめ               解説図

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